カカオの学名は「Theobroma cacao」。テオブロマはギリシャ語で「神々の(theos)食べ物(broma)」という意味です。原産地はメソアメリカ(今のメキシコ南部やユカタン半島周辺)で、約4000年前から人類に食されていたことが古代文明の遺跡からわかっています。神々への捧げ物や儀式にも使われるなど貴重品であったため、通貨としても用いられていました。最初は木の実(カカオポッド)の白い果肉(カカオパルプ)だけを食べていましたが、まもなくカカオ豆も食べ始めました。数千年もの間人々は、発酵させたカカオ豆を焙炒しメタテとマノという「石」の磨砕道具ですり潰したものをトウモロコシの粉と水に混ぜ、「冷たく苦い飲み物」として飲んでいました。それが1528年、コルテスによってスペインに持ち帰られ、砂糖やバニラを加えた香ばしい「甘くて温かい飲み物」に生まれ変わりました。そして今からわずか約170年前、技術革新によりイギリスで遂に現在のような「食べるチョコレート」が誕生しました。このようにカカオは人類と4000年もの長い歴史を経て世界を巡り食べ方が変遷してきた極めて稀な食べ物なのです。
カカオ豆とは、カカオの樹に実った果実の中にある種子のことです。カカオの栽培地は、カカオベルトと呼ばれる赤道付近に限られ、更に高度や平均気温、年間降雨量などの諸条件が揃う限定された地域でしか生育しない繊細な樹木です。主な生産国は、西アフリカのコートジボアール、ガーナ、中南米ではエクアドル、東南アジアではインドネシア。世界の年間生産量約417万トンの70%がアフリカ産です。カカオ起源の中南米は生産量は多くありませんが、高品質の豆が生産されることで知られています。日本の年間輸入量は約3万2千トン。その内の74%がガーナ産です。一般的なチョコレートは味を均一化し、品質を安定させるために異なる産地や品種のカカオ豆をブレンドして製造されます。しかし最近の流れでは、カカオ豆の個性の違いを味わうため、「シングルビーン」と呼ばれる単一産地の豆で作るチョコレートが増えてきました。次の章では、カカオの品種ごとの特徴、スーパーフードと呼ばれるカカオ豆の栄養価値について解説します。